『お母さんのこと忘れたらごめんね』抗NMDA受容体脳炎という病

 最初は、若年性認知症の人のことが書かれているのかと思って手に取った本。でもそれは違っていて、じつは、原因不明の病に襲われた娘を看病した母親の記録でした(実話)。その病名が判明したのは、入院してからなんと8か月くらいたってからのこと。

お母さんのこと忘れたらごめんね

お母さんのこと忘れたらごめんね

 

病名は抗NMDA受容体脳炎というもので、卵巣奇形腫を合併していることが多いらしい(だから女性に発症することが多い)。

 

この本を読んで、入院していた今は亡き父のことを思い出しました。父は抗NMDA受容体脳炎とはまったく違うけど、(おそらく髄膜炎?という脳炎の一種?)けいれんが起きているからといって、けいれん止めを処方されていたというのは、父の入院時と同じでした。けいれん止めを(点滴などで)入れられると、意識がなくなり、ずーっと眠ったままになってしまう。それはおそらく正しい処方で、だからけいれんは抑えられているのだろうけど、意識がなくなってしまうと次に意識はいつ戻るのだろう?と、とても心配になる。父の場合はちょうど1か月くらいで意識が戻ってほっとした(それもつかの間だったが)が、作者の娘さんは意識不明の状態が8か月という長期間!

 

母親である作者は小学校の先生をしていたらしいけど、自分がした授業はまったく上の空で覚えていないと書かれていた。それはそうだろう。もし自分の子どもが、と考えるときっと何も手がつかなくなってしまうにちがいない。発狂さえしてしまうかもしれないな。

 

病名がほぼ確実になってから、転院し、治療が順調にいき、回復したとのこと。でも当時、日本ではあまり診断や治療が行われておらず、わざわざアメリカの教授のところへ血液を送ったりしてやっと判明したとのことだ。

意識不明の状態での「転院」は本当に大変なことだっただろう。「転院」についても父のことを思い出す。入院していた父は聞くところによるとあまりいい対応をしてもらっていなかったらしい。親戚の方が毎日のようにお見舞いに行ってくれたおかげで看護婦さんの対応などが少しずつよくなっていった、と聞いた。そんな病院は転院したほうがいいのでは?とわたしも一瞬思ったし、わたしの子どももそう考えた。でも透析治療&意識のない父を転院させるなんて、どんなにか大変なことだろう、きっとそんなことは無理だろう、と自分の大変さ、苦労ばかりを心配して、転院させる勇気もなかった。

 

もし父が転院できていたら、どうなっていただろうか。過ぎてしまったことにたらればは言ってもしょうがないけど。

 

著者の娘さんは無事回復したけど、高次機能障害という脳の障害が残っているという。高次機能障害は見た目だけではわからない障害らしく、仕事をしたりする上で周りの人たちの理解が欠かせないという。

 

映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』が少し前に話題になったが、この映画は抗NMDA受容体脳炎にかかった人のお話だそうだ。機会があったら、観てみたい。

 

この世にはまだまだ解明されていないことがあるんだな、と思い知らされた本でした。